著作権法において非親告罪化が2018年12月30日から施行されることをみなさんはご存知でしょうか?
ツイッター界隈やブログを見てもあまり話題になっていませんが、これまでのネットが大きく変わるかもしれない(変わらないかもしれない)大きな節目と言えます。
あれだけ騒がれたTPPに関連した項目なんですが、もう誰もが忘れ去っている気もするのでここで解説したいと思います。
目次
著作権と親告罪
そもそも著作権法とは?
著作権とは様々な権利を総称して「著作権」と読んでいるもので、その目的は著作物を生み出した著作者の利益を守り、文化の健全な発展を促すための法律です。
せっかく頑張ってつくった著作物をみんなが勝手に販売したりコピーして配布したら、著作物を頑張ってつくろうという気が起こらなくなってしまいますよね。
著作物の内容は音楽、絵画、小説、写真、映画といった文化的なものから図面、図表、コンピュータープログラムといったものにまで及びます。
親告罪とは?
親告罪とは被害者の告訴(訴え)がなければ刑事事件として起訴することができない罪のことです。
現在までは著作権侵害の多くは一部を除いて多くが非親告罪でした。
なぜ著作者の権利を守るための著作権法が親告罪だったのか?それは非親告罪だと大くんも問題が起こるためです。
例えばあるゲーム会社では宣伝になるからとゲーム配信やキャラ画像の使用を事実上黙認・あるいは公式に認めているとします。しかし全ての著作者がどのような姿勢を取っているかなど第三者には正確に分かり得るわけがないので、著作権者の意向を無視して使用者が摘発されてしまう可能性があります。
こういったこともあり著作権法の多くはこれまで親告罪という形をとっていました。
TPP(環太平洋経済パートナシップ協定)関連法案
いろんな国の思惑の正確なところはわからないので置いておくとして…
TPPは「多くのTPP加盟国が国ごとに異なるルールを統一して障壁をなくし、お互いの資源(ヒト・モノ・サービス)が自由に行き来できるようにしよう」というものです。
そしてそのTPPの中身には「著作権侵害の非親告罪化」も含まれていたのです。
とにもかくにも日本は既に参加することになり、既に…というかとっくに著作権法改正が決まり、2018年12月30日から非親告罪になることが決まりました。
著作権法改正で何が変わる?
著作権法改正で具体的にどのようなことが変わるのかというのが次の5つの項目です。
- 著作物等の保護期間の延長
- 著作権等侵害罪の一部非親告罪化
- 著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備
- 配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与
- 損害賠償に関する規定の見直し
ここでは2番目の著作権等侵害罪の一部非親告罪化について解説します。
著作権侵害罪の一部非親告罪化の中身
政府が公表している「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要」を引用すると以下のように書かれています。
現在親告罪とされている著作権等侵害罪について、以下のすべての要件を満たす場合に限り、非親告罪の対象とする。
①対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること
②有償著作物等(※)について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うものであること
③有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が、不当に害されること
(※)有償で公衆に提供又は提示されている著作物等非親告罪となる侵害行為の例
販売中の漫画や小説本の海賊版を販売する行為
映画の海賊版をネット配信する行為親告罪のままとなる行為の例
漫画等の同人誌をコミケで販売する行為
漫画のパロディをブログに投稿する行為
引用元:環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要(2018年12月3日)
http://www.cas.go.jp/jp/houan/160308/siryou1.pdf
もっといろいろな例が載っていれば良かったのですが、現状としてはこんな形ですね。
非親告罪は3つの要件をすべて満たす場合に限り、対象となるもの・ならないものが存在するのがポイントです。
非親告罪化による影響の予想
影響をはかる基準
個人的にはブログやSNSへの影響が気になるところです。ブログ運営は完全オリジナルのもの、一部権利に掛かる著作物を使っているものからアウトスレスレのネタバレ漫画画像まとめ的なものもあります。
その他にもNaverまとめ等のキュレーションサイト、SNS、コミケなどの二次創作など著作権法が適用されるコンテンツは多くあります。
これらがアウトかセーフかは以下の基準に則って考えます。
現在親告罪とされている著作権等侵害罪について、以下のすべての要件を満たす場合に限り、非親告罪の対象とする。
①対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること
②有償著作物等(※)について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うものであること
③有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が、不当に害されること
(※)有償で公衆に提供又は提示されている著作物等
引用元:環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案の概要(2018年12月3日)
http://www.cas.go.jp/jp/houan/160308/siryou1.pdf
そしてこれらを当てはめてブログ・WEBサイト等への影響はどうなのかを考えてみました。これはあくまで私の推測・予測なので一つの意見として聞いてください。
3つの要件の①と②については全て満たす場合がほとんどであると思われるので、③を満たすかどうかが争点かと思われます。
二次創作への影響
例からするとコミケで漫画等の同人誌を販売する行為は現状のまま親告罪ということになります。
またパロディをブログに投稿する行為も親告罪です。
この辺は懸念されている方も多かったので一安心でしょうか。
親告罪だから全く問題がないというわけではありません。現状は告訴がないためひとまず大丈夫というだけであり、そこにはグレーゾーンのリスクがあることを理解しておく必要があります。
漫画配布・海賊版等の販売・配信サイト
例にも挙げられるくらいのアウトです。
もろに権利者の利益が不当に害される行為ですから、非親告罪により取り締まられる一番の目的・対象ではないでしょうか。
今後は非親告罪となって次々摘発されるのではないでしょうか。
漫画ネタバレサイト(画像転載多め)
掲載している量によってグレーゾーン内での立ち位置が変わりそうです。もちろん全ページ掲載はアウトでしょうが、数カット載せて紹介・レビュー程度だと権利者の利益が不当に害される行為か微妙に思えます。一方で10ページ、20ページと載せていると危険かもしれません。
いずれにせよリスクは高まると思われます。多数のページを転載しているサイトは要注意ですね。
実は結構ヤバイかも?というのがNaverまとめ等の企業キュレーションサイトです。
数多く存在する個人サイトを探して潰していくよりも、多数の投稿者をまとめて利益を得ている企業のキュレーションサイトの方が効率的に潰せます。特にNaverまとめは朝日新聞等報道7社と協議した上で、転載されていた画像34万件を削除してドメインブロッックを実施するなどの措置を取ることとなりました。
個人サイトよりもこうした企業キュレーションサイトは何らかの影響が出やすいかもしれません。
芸能ニュースや5ch等のまとめサイト
個人サイトでどうなるか注目されるのがこのまとめサイトです。まとめサイトはいつの間にかジャンルを問わず多くの情報を一般人がかいつまんで把握するためのサイトとなりました。
この手のサイトは無数に存在しているので全てが取り締まりを受けるということは無い気がします。しかし芸能ニュースを扱うようなトレンド系ブログはもともとかなりのグレーゾーンであり、摘発を食らってもおかしくないと思います。
著作権法違反だけでなく誹謗中傷や名誉毀損も適用されうるコンテンツが多いため、これを機に一掃されてもおかしくないんじゃないかなという気がします。
一番ボリュームがありそうで幅広いグレーゾーンのため一概には言えないですが、元々権利に厳しい芸能系は要注意と思われます。
ゲーム攻略サイト
ゲーム関係は多くの場合は企業側が積極的に容認するんじゃないかと思ってます。任天堂も「ゲーム実況動画」に対して著作権侵害を主張しないガイドラインを発表しました。一方でアトラスなんかは厳しいので今後は更に厳しくなるかもしれません。
仮にネットからゲーム攻略サイトが消えたら日本のゲーム業界はますます厳しくなるんじゃないでしょうか。
YouTubeの動画
YouTubeにはテレビで放映された動画や芸能人の写真を使ったゴシップ記事動画が多く存在しています。
最近だと
- ガキが…舐めてると潰すぞ
- 引退します…
- 尾田くん…見損なったぞ
- 一同驚愕
といった動画が話題になりました。
こういったコンテンツの投稿も今後は大きなリスクを背負うことになります。
逆にオリジナルコンテンツを投稿している人はそういった動画が減ることでより有利になると言えます。
SNSでの画像利用
一般アカウントがツイッターやインスタグラムでちょっとした画像を載せたり、動画を投稿したりする分には問題無さそうです。
とはいえ無制限に転載して良いというわけではないので気をつけて利用しましょう。
最後は警察・検察(政府)の判断
いろいろな分析をした上で投げ出すような結論ですが、最後は結局は警察・検察(政府)の判断です。
「これくらいなら大丈夫だろう」という認識で運営していて済む場合・済まない場合どちらもありえます。
しかし政府としてもむやみに摘発して日本の文化を萎縮させるような事はしたくないはずです。
お隣の韓国は実は意外にも2011年に著作権が非親告罪化された国です。これが韓国国内にどのような影響を与えたかと言うと、権利者ではなく著作権を持たない第三者が著作権侵害者に損害賠償を迫るような「コピーライトトロール(著作権トロール)」が出てきたのです。
分かりやすく言うと「おいおい!お前のサイトで●●さんの著作権侵害してるだろう!刑事告発してやるからな!まあでも誠意を見せて賠償金を払ってもらえれば許してやらんでもないが…」ということです。
このように権利者が全く問題視していなくても全く関係ないところで、それを利用して第三者が金銭的利益を得る行為が横行しているのです。
この辺は山田太郎前参議院議員の韓国での表現の自由調査結果資料に詳しく書かれているので、ぜひ読んでみてください。
日本政府でもこのようなことは想定しているはずなので、ここまでのことは起こらないとは思います。
特に「③有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が、不当に害されること」という項目は、多くのコピーライトトロールから守ってくれるかと思います。
しかし一方で「自分は健全だから問題ない」というスタンスでいても、どこから重箱の隅を突かれるか分からず、また自分が突かれなくても権利者の意図しない形で権利が第三者に悪用されて日本の文化が衰退する可能性もあるということを頭の片隅に入れておく必要があります。